株式会社天地人様(以下敬称略)は2019年5月に創業、地球観測衛星のビッグデータなどを活用した宇宙から土地を評価するサービス『天地人コンパス』を運営し、2022年に世界で初めて【JAXA】から出資を受けたJAXA認定ベンチャーとなりました。それはJAXAから大きな成長が期待される企業の証でもあります。今回は、開発ディレクターの吉田裕紀さんとソフトウェアエンジニアの石田尾豪さんのお二人に、『天地人コンパス』を軸にお話をうかがいました。
サービス紹介
地図というコンテンツで社会に貢献
『天地人コンパス』は、Web GISを用いており、使い方は多種多様です。衛星画像や地理情報を使ってクライアントの業務を支援するプロダクトですが、そのベースマップにMapboxのSatelliteとStreetsのタイルセットを使用しています。当初、衛星画像は国土地理院(日本のみ対応)を使用していましたが、季節によって色がちぐはぐだったり、解像度の差などが生じていたので、乗り換えを試みました。導入してみると圧倒的にMapboxの衛星画像はきれいでした。
『天地人コンパス』の大きな特徴としては、基本の地図の上に衛星から取得した地表面温度などのデータやハザードマップなど複数のレイヤーを重ねられることです。農業であれば、地表面温度や降水量を可視化することで、違う土地から類似した環境を探すこともできます。実際に、南半球のニュージーランドでキウイを生育している場所に近い環境を北半球の日本国内で探すプロジェクトにも取り組んでいました。
キャンプ場や運動場などの開発でも、従来は地図の情報だけを見てあとは一箇所ずつ現地調査をするといったプロセスが、『天地人コンパス』を使えば傾斜や面積、土地利用区分などの重要な要素が事前にわかるため、大幅なコスト削減につながります。その他、太陽光発電のソーラーパネル設置場所、風力発電所の設置場所を探すような案件でも、気温、日射量、風速などをはじめとする様々なデータを活用し、持続性可能エネルギープラント建設に大きく寄与し始めています。
導入の経緯・導入前の課題
Mapbox Studioが個性を生み出してくれた
Mapboxはオンライン地図サービスの中でもカスタマイズ性が高いことと、すぐに使えるタイルセットが用意されていたり、開発環境の扱いやすさが導入の決め手でした。ベースマップの衛星画像に関しても、画像の高精細さと、更新頻度の高さもポイントでした。
『天地人コンパス』では、顧客のニーズに応じて、対象エリアの詳細な衛星画像や独自の地図を提供しています。ただし、ベースマップのように世界中をカバーするような画像を自社でメンテナンスするのは、コスト面や時間面で効率が悪いという課題がありました。また、顧客の担当される部署の方はすでに日常的に地図やGISを使用されている方も少なくありません。そこに『天地人コンパス』を導入していただくにあたって、なるべく彼らが使い慣れた地図に近いものを提供し、スムーズに導入していただきたいという思いもありました。それがMapbox導入でほぼ解決できました。
実際にMapbox Studioでカスタムした地図を使ったところ、お客様からは『地図が見やすくなった』という声をいただきました。
新しい一歩を踏み出した『天地人コンパス 宇宙水道局』
2023年4月、新しい試みがスタートしました。それが水道管の漏水リスク管理業務システムの『天地人コンパス 宇宙水道局(以下・宇宙水道局)』です。地球観測衛星が観測した宇宙ビッグデータから割り出した地表面温度、土地の傾斜などに加え、水道事業者が保有する水道管路情報や漏水履歴、オープンデータなど様々な情報を組み合わせて、AIで解析し、水漏れの起きやすい場所をあらかじめ予測しながら、約100m四方の地区ごとに漏水リスクを評価し、このシステムで確認・管理する独自の特許出願技術を持つものです。
『宇宙水道局』フォーマットにあるベースマップと白黒の地図はMapbox Studioで作っています。水道管の図でいえば、水道管以外に色がついていないことが見やすく、使い勝手を良くするポイントです。ですので、[白黒][見やすい][道がしっかりわかる][町の境界線がわかる][番地がきっちり判別できる]という要素を備えた地図をMapbo Studioで作成しました。Mapbox Studioは細かく設定できるので、カスタマイズが容易だったのが嬉しかったですね。慣れてしまえばカスタムしやすく、直感的に操作できました。また、地図のデータは各自治体ごとで途切れてしまうことも少なくないのですが、ベースマップを国内はおろか海外も含めて共通で用意できることも大きな魅力です。
月の世界にも応用した試み
コンパスのスピンオフとして、2022年11月の皆既月食に合わせて『天地人コンパスMOON(以下、MOON)』というプロダクトをリリースしました。このプロダクトでは、Mapbox APIとNASAの公開しているデータを組み合わせて、月の3D表示や月面の地形の分析などを行えるようにしています。『MOON』は、『今までこんな表現を見たことがなかった』『非常にわかりやすい』など大変好評で、多くのメディアにも取り上げていただきました。
『MOON』はMapbox GL JSベースで作られています。地球儀の形で地図投影するMapbox Globe viewを応用して月を3Dで表現しました。Mapboxのツールで二点間の距離を計測できるようにしたり、月食シミュレーション機能では、MapboxのExampleと同じ方法でタイムスライドバーを実装しました。クレーター断面図作成機能では、クレーターの断面の標高を計測することもできます。標高を見る時に、富士山など、対象物がグラフィック的に背景に入り比較できるような工夫もしています。有名なコペルニクスクレーターには富士山がすっぽり入ってしまいます。
苦労したことは、Mapboxのツールを地球以外で使い、距離などを計算する時に、地球仕様のものを月に合わせるために再計算したところです。同じ球体・360度でも、1度あたりの距離が違うんです!今後は3Dで回転している時に、向こうに地球が見えたり、人工衛星が飛んでいるのが見えたり、そうしたものも付加できたら面白いですね。
導入の効果
表示スピードは重要な要素です。普段デスクトップのアプリケーションを使っているお客様からすると、『天地人コンパス』はブラウザで動くところもよく、サクサク動くという評価をいただいています。実際他の地図と比較しても、Mapboxのベースマップは、レイヤーを重ねても圧倒的に表示速度が速いです。
特に、Mapbox GL JSを使って3Dレンダリングをしている『MOON』は圧倒的に速く、扱いやすさや操作感が全然違います。
また、色々な開発にあたり、技術的なことを調べていくと、気になるツールの作者がMapboxだったことが多かったです。Mapboxはドキュメントが豊富で読みやすく、Exampleページにはサンプルコードが載っています。Exampleの中身がとても充実しているので、問題があっても解決しやすく、マップボックスへ直接問い合わせしたことは今のところありません。
将来の展望
GISといえば、たくさんボタンがあって、知っている人しか使えないというイメージが強いですが、『天地人コンパス』では[見た目シンプルで使いやすい]を追求し、データを可視化する上で最適なUIを目指しています。今後に向けては、Web上でより手軽に解析ができる機能を増やしたり、様々な業種や文化圏ごとにフィットしていくような開発をしていきたいと考えています。
また、『MOON』はインターン生が主体的にプロジェクトを持って実験場として作ったものですが、その機能を『天地人コンパス』に実装していきます。
『MOON』は教育機関でも使っていただきたいですね。例えば夏休みの自由研究などで活用してもらいたいと思っています。月は小学生から大人まで興味のある場所ですから。
若い発想が無限の可能性を創り出す。
天地人はまさに可能性の塊。
これからの時代を自ら切り拓くパワーがここにある。
紹介しきれなかった農業、環境のことも含め、天地人が持っている大きな夢が社会とバランスし、実りある次の時代を築いていくことを願ってやみません。