最近、第4の交通機関として注目されつつあるのが「のりあいタクシー」です。
のりあいタクシーは「○月○日の△時ごろに××を出発して、□時ごろに◇◇に着きたい」と予約すると、指定どおりに迎えに来てくれて、目的地まで乗せてくれます。通常のタクシーと異なるのは、1台にほかのお客さんも乗り合わせて一緒に移動することですが、そのぶん、料金は普通のタクシーよりリーズナブルな設定になっています。
そんなのりあいタクシー用システムとして、現在トップクラスの評価を得ているのが、電脳交通が提供するクラウド型タクシー配車システム「DS」です。のりあいタクシーでは、乗客からの多種多様な予約を組み合わせた、いわば「便」を、いかに効率的なルートで、しかも素早くつくれるかがポイントです。
そんな高度な機能が要求される電脳交通のシステムに使われているのがマップボックス社の地図APIです。というわけで、今回は電脳交通ののりあいタクシー配車システムを開発した佐竹恭祐さんに、その開発裏話をうかがってみました。
「電脳交通がのりあいタクシー事業に参入したのは3年ほど前です。最初はその“便”の組み合わせをすべて手動でおこなっていました」と佐竹さん。
当初は電脳交通でも、Aさん宅に何時何分、次にBさん宅に何時何分に出迎えて、Cという目的地に向かう……といった便をオペレーターが手作業で作成して、その後のルートを他社のAPIを使って一本一本設定していたそうです。
「当時はいわば熟練オペレーターの経験と勘によって便をつくっていたわけですが、予約が重なると、どうしても時間がかかってしまいます。
また、技術の高いオペレーターとそうではないオペレーターでは、便の品質や効率に差が出てしまったり、便を組んだ時点では最適だった順番とルートでも、実際に走ると予想以上に時間がかかってしまう……といったケースもありました。そこをなんとか自動化・最適化できないかというのが当初からの課題でした」
こうして開発された電脳交通のシステムでは、乗客からの予約を入力していくだけで、それらを最適に振り分け・組み合わせた便やルートが自動的に作成されます。また、出発前に新たな予約が入れば、その都度、最適な便がつくり作り直されます。
……と簡単に書いていますが、実際のシステムは非常に複雑な計算が要求されます。その理由のひとつは、のりあいタクシー便に使われる車両は、あくまで一般のタクシーであることです。のりあいタクシー便に使われているとき以外は普通のタクシーとして働いているので、便の発車時間に合わせて最も効率的≒出発点の近くにいる空き車両を、最適のタイミングで配車しなければなりません。
しかも、のりあいタクシーの多くは、出発30分前まで予約を受け付けているので、各便の乗客数や出迎えの場所や時間は、出発まで刻々と変化します。
電脳交通のシステムはそのために、便の組み合わせやルート設定は自動化しつつも、車両だけはあえて人間のオペレーターの判断に任せる仕組みになっています。そうすることで、逆にギリギリまで柔軟に対応できるのだそうです。
「今のシステムに行き着くまでには、他社のAPIを試したり、検討したこともありました。ただ、われわれの考える仕様やクオリティととズレがあったり、コスト的に見合わないということが続いていたんです」
そんな電脳交通が最終的に選んだのが、Mapbox APIでした。
「その理由は、われわれが求めていた仕様に、Mapbox APIのそれがぴたりと合致したからです。先ほどもお話ししましたが、便の設定時に車両を決めなくてもいい仕様に、最初からなっているのがメリットでした」
ただ、こうして電脳交通とMapbox APIが出会ったのは、開発に向けていろいろと模索していた佐竹さんが、ネット上でたまたま見つけたのがキッカケという。
「最初はたまたま見つけたんですね。私のような開発者にとってのMapbox APIのメリットは、ドキュメントが公開されていて、ある程度のレベルまで気軽にカスタマイズして試したり、そのまま使えることです。
この種のAPIでは、一定以上のレベルのことをやろうとすると契約が必要で、安くない使用料が発生することも多いんです。試してみてうまくいかなければ使用料も無駄になりますから、開発者としては、そういうものには気軽に手を出しにくいというのが本音です。その点、マップボックスは事業化できる方向性が見えるまで、無料で気軽に触れることでがきるのがが大きなメリットでした」
こうして佐竹さんとマップボックスのふとした出会いから、電脳交通ののりあいタクシー/デマンドタクシーのシステムは生まれた。
「電脳交通のシステムを最初に導入していただいた神奈川県のタクシー事業者は、国内トップクラスに配車数の多いタクシー事業者です。1ヵ月で平均3000件以上、単純計算で1日100以上の便を運用しています。最初に視察させていただいたときには、スゴ技をもつオペレーターさんが紙に書いて便を組んでいました」
佐竹さんによると、一般のタクシーを営業しつつ、のりあいタクシーも同時に運用できるシステムはまだ少数だそうです。しかも、電脳交通のようにリアルに使いやすいシステムはなかなかないのでは……胸を張る佐竹さんです。
関連記事
電脳交通インタビューvol.1 タクシーの未来はどうなる!? 電脳交通社長に聞く
電脳交通インタビューvol.3 電脳交通が考える公共交通の未来|電脳交通社長に聞く
■著者プロフィール
佐野弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。現在はWEB、一般誌、自動車専門誌を問わずに多くのメディアに寄稿する。新型車速報誌の「開発ストーリー」を手がけることも多く、国内外の自動車エンジニアや商品企画担当者、メーカー役員へのインタビュー経験も豊富。2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員